通説・定説を重視する理由 ~新説の危うさ~
当サイトの歴史解説は、通説・定説を重視しています。
古くから伝わっている「従来説」であり「一般論」です。
歴史は通説よりも、新説の方が持てはやされます。インターネット上では特にそうです。
ですから当サイトのように通説を重視しているウェブサイトは、割と珍しいです。
これについては、初心者向けのサイトだから、というのもあるのですが……
どうしてそうなったかについて、新説の危うさを訴えるためにも、少し述べておきたいと思います。
当サイトを作り始めたのは2003年の頃。
当時はまだインターネットの諸々のシステムが、発展途上の時代と言えました。
ブログなんて存在しておらず、Google もまだ一般的ではなく、検索は Infoseek などの古いものが使われていた時代。
Wiki もできたばかりで、Wikipedia は日本語版が立ち上がったばかり、中身はスカスカでした。
私は信長の野望 Online に登場する戦国大名家の武将名鑑を作るべく、情報を調べ始めましたが、当時のネットの情報は限られていました。
おまけに信Onには一般には語られない、どマイナーな武将がたくさん出てきます。
そこいらの歴史書籍には有名人しか載っていないため、マイナー武将を調べるのはかなり難しい。
半分ぐらいはコーエーが発売している信長の野望の書籍「武将FILE」シリーズで何とかできますが、それでも解らないものはもう、図書館で郷土資料をあさるしかありません。
図書館に行き、浅井家の武将なら浅井家で調べるのではなく、近江の歴史とか、滋賀県の資料とかを持ってきて、戦国期のページをチェックしていきます。
郷土資料なら、その地域の人しかわからないようなマイナーさんの名前も掘り当てられます。
しかし、マイナーな資料や事柄になるほど、表記は曖昧になっていきます。
よく解らない場合や矛盾する場合、関連する事柄を他の書籍で調べたりして、別の側面から何が正しいのかを探っていくわけですが…… ここで問題が。
調べれば調べるほど、わからなくなっていく場合が多いのです…… 歴史解説書のたぐいの場合。
歴史関連の書籍というものは、歴史家(歴史学者・歴史研究者)の皆さんが執筆しています。
そして歴史家の皆さんは、こう言うと怒られるかもしれませんが…… みんな「俺様の新説」を唱えたがります。
通説・従来説をそのまま言うだけでは意味がないので、当然ではあるのですが、そのため歴史家が3人いれば、3通りの説が出てきてしまうわけです。
そもそも当時は情報網が未発達の時代。
これだけ通信が発達した現代でも情報が錯綜するぐらいですから、当時だと記録によって全く違うことが書かれていることも多々あり、それも異説の誕生に拍車をかけます。
どれが本当か調べるために新しい書籍を読んでも、また新しい説が書いてあったりして、時にはそれぞれの説を否定し合い、バトル状態になっていたりもします。
それらをまとめようとしている者としては、こういうのに直面すると「お前らいい加減にしろ!」とか思ってしまうわけです。偉そうですが。
で、そういうものを何度も見ているうちにたどり着いた結論が……
「もう通説でいい。むしろ通説が一番」です。
複数の説があるなら通説にもっとも近いものを選び、新説は紹介に留め、内容が矛盾する場合は断定を避けています。
歴史家の方を否定するわけではありませんが、新説には多かれ少なかれ、それを唱える歴史家の「功名心」が見え隠れします。
あまりそれに踊らされるのは良くない。
そもそも時間が経つほど真相は分からなくなっていくのですから、当時に近い時代の説ほど真に迫ってるんじゃないのか? とも思ってしまうわけです。
あと、こう言ってはまた怒られそうですが、歴史家も新説も様々で、中にはだいぶ見識の狭い人や、眉唾な説の場合もあります。
一時期「刀は役立たず」という説が流行ったのをご存じでしょうか?
戦国時代、刀は飾りであり、首を取るためだけのもので、槍や弓矢が主力だった、というものです。
槍や弓が主力だったのは間違いないのですが、刀は本当に役立たずだったのでしょうか?
実は、この説はある歴史家が、当時の合戦の死傷原因数をまとめた記録を見つけ、鉄砲や矢で傷を負った者が一番多く、次いで槍、刀は一番少なかったことから、言い出したものです。
ですが、全兵士がすべての武器を持っていて均一に使っていたのなら分かりますが、刀は持っていない雑兵もいるし、戦いはまずは鉄砲や弓の撃ち合い、次に槍の突き合いが流れなので、刀傷が比較して少ないのは当然です。
それに、例えば現代戦は銃で死ぬ人が多く、手榴弾で死ぬ人はそれより少ないですが、だからと言って手榴弾が役立たずという話にはなりません。
しかし、この「刀は役立たず」という説は、そのインパクトによって爆発的に広まりました。
従来説をくつがえす新説であり、インパクトもあると、人々に持てはやされるのです。
それでなくても人々は「新しい説=そちらの方が正しい」と思いがちです。
ですが、これこそが新説の危うさです。
明らかにあやしい説でも容易に信じられてしまうのです。
他にも「桶狭間は奇襲じゃない」「長篠で鉄砲の多段撃ちはない」などが出てきて、話題になっています。
すぐに反論も出てきて議論が続いており、議論される段階になれば良いのですが、出てきた直後にすごく広まると、おかしなことになりがちです。
当サイトも通説・定説を重視しつつも、面白い新説なら、取り上げている場合もあります。
新しい資料の発見により、従来説が明確にひっくり返されることもないわけではありません。
ただ、基本的に新説は、所詮は誰かが言い出したものであり、無条件で鵜呑みにすることは避けるべきで、常に比重は定説に寄っておくべきだと考えています。